大槙村史誌

にしかたの昔語り

大槙村史誌

　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　「大槙村史誌」は平成１４年夏、市内の郷土史家髙橋欣二先生が、白鳥地区と碁点地区にはさまれた大槙地区についてまとめられた資料です。髙橋欣二先生は村山市文化財保護審議会会長を務められた他、長年にわたり郷土史の研究を続け、村山市史の編さん等に尽力されました。また「碁点界隈昔話」「白鳥十郎夜話」「対峙の武将」「夢枕・時流れて」「城舘事始異聞」等多くの著作を残されました。本ホームページでこのページと「大槙村史誌より」とおことわりしてあるページは父が高橋先生からいただいたと思われるこの「大槙村史誌」を、原文を極力活かしながらホームページにまとめてみたものです。よって文責は管理人にあります。資料で紹介されている旧跡などを巡ってみたいと思っています。
大槙遺跡　大字大槙字鹿ノ子沢（昭和47（1972）年７月発刊の「とざわ夜話」(戸沢中学校刊)による）
　大槙地区の古い時代のことは記録がないところから、遺構や遺跡をたどって推測・推考する以外に手だてがありません。推考にあっては古老の覚えや人々の伝承が極めて貴重な資料となります。
　最上川の三難所の一つ「三ケ瀬」の右岸上流へ２００ｍの河成段丘上にあり、戦後の開拓と更に昭和36（1961）年以降に開田されたときに発見されました。縄文中期(約4000年前)の大遺跡であるとともに、須恵器も出土しています。すぐ近くに袋・共栄・長峰等の遺跡があります。
　この遺跡から考えられることは、最上川の段丘地に遺跡がみられるということであり、狩猟・漁労が主だった大昔は、この地域が生活に適した場所なのであったと思われます。「日本の古代遺跡21山形」という本には、三ケ瀬遺跡からは小型の石槍が見つかっており、漁労用のヤスに利用されたものと考えられ、また発見された遺物に堅果類をうち割るのに用いられた凹石が多いところから、最上川べりで植物性の資源と浅瀬でサケ・マスを捕獲して食糧を確保し生活していたと推測できる、と記されています。
　石器類の出土は5000年以上も昔のことであり、土器類の出土は3000年以上も前のことですから、この地域には長期にわたって人が定住していたと考えてよいと思います。古老の言う「鹿ノ子沢千軒」「矢埼百軒」という伝承も、満更の虚言・空言ではなさそうです。最上川左岸段丘地の袋地区は、大昔袋町といい多くの人々が生活していた場所で、矢尻・石槍などの石器が出土した、と古老は伝えています。
　　新庄藩時代
　白鳥十郎長久が最上義光に亡ぼされた天正12（1584）年以降、大牧地区は最上氏の配下となり、元和８（1622）年の最上家改易まで続きました。その後新庄藩戸沢氏の領地となって、幕末まで続くことになるのです。大槙村は谷地廻に入っていて、石高は1236石２斗５升でした。新庄藩の村鑑には、大槙村の枝郷として、反田・沖・北野口・野口・田中・川口・驚滝・船橋・鹿ノ子沢・矢崎・平林と11の枝郷があげられています。
　江戸時代は世襲制の庄屋（新庄藩では延宝年間(1673年)以前は名主といっていた）が石高を取り扱ったのですが、大槙村の場合、稲下庄屋が代行したり、新庄藩から派遣された藩士がつとめるなど、順調には継続しなかったようです。古老の話によれば庄屋の息子が近在の娘と恋におちて、駆け落ちしたからだと消息を伝えていますが真偽のほどは分かりません。庄屋の跡継ぎが不在となって、大槙村では大変な事態を迎えていたのではないでしょうか、新庄藩としても困ったことだったろう、と推測します。庄屋は現在の町村長にあたりますが、その権限は現在の町村長よりはるかに大きく強いものでした。その職務内容を略記すれば、つぎのとおりです。
・年貢の各農家への割り当て
・検地・宗門改めの立ち会いのうえ、検地帳・宗門帳を作成する
・夫伝馬(大名行列の荷物運びの人夫・馬)の割り当て
・諸願書・届書の提出
・布令・法令の徹底を推進する
　村には庄屋のほか、組頭・長百姓・筆取・桝取・山守などの役人がおり、庄屋の小走りが触書の伝達にあたっていました。庄屋・組頭・長百姓は村内の旧家で人望の厚い家柄が選ばれました。筆取は代宮所や藩に差し出す報告書・願書・年貢割り当て・納入の記録などが任務でした。大槙村の場合、４組に分かれていたようで沖・驚滝・船橋・反田の四組であり、小さい枝郷は所属する地区に含まれたようです。
　新庄藩は新田開発に力を注ぎ、各地に溜池を築堤して開発を促進したといわれています。その証しとして新庄藩時代に築堤して造成された溜池が下谷地郷には大変おおい。大槙地区では玉ノ木堤が元禄期(1688～1703年)に築堤されたと伝承されていますがその石高の増加の記録がないのは残念です。水利の悪い大槙では新田開発が思うように進まなかったのでないか、と思われます。そのほか殖産興業として漆の植栽、青その栽培をすすめ藩の財政を豊かにする政策を実行しました。大槙村の最上川の川べり地域には沢山の漆の木が見られましたし、屋敷の片隅には青そ畑がみられましたが、いま其の影がないのが淋しい気がします。
　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　反田のつつみ
　新庄藩の支配体制は、領内を１２郷に分かち、一層強化を図っています。大槙村は１２郷のうちの下谷地郷に属しています。同郷は８ケ村から成っており、横山・田沢・駒井・山ノ内・稲下・上野・白鳥・大槙の各村です。新庄藩領内の米どころとして、清水郷・上谷地郷とともに下谷地郷は豊壌の地として大切に扱われてきました。下谷地郷の代官所は、河北町谷地の北口にありました。
　　最上川舟運と米出し原
　最上川の舟運が盛んになったのは、河村瑞賢が「荒浜出し(海港まで内陸の大小の河川を利用して物資を船で輸送する方法)」を開発した寛文12（1672）年以降です。この「荒浜出し」は、幕府領が多くなり江戸の蔵前に運ばなければならない必要性にせまられて開発されました。その以前は魚労用の小船を使って物資を輸送していたようです。最上川の舟運で最大の難所は、碁点・三ケ瀬・早房瀬であり、いずれも大槙村にある場所で、一度破船の知らせがあれば出役人夫の要請があって、各家には沈んだ船荷を引き上げる鈷が準備されていたといわれています。破船の多い箇所は早房瀬で、次は碁点の急流でした。それ故三難所には案内船として瀬取船がおかれて航行の安全をはかったのですが、航行については代官所達で厳しい規制が定められていました。それは、
1・三難所の通航は一艘ずつとし、間隔は必ず百間(180ｍ)とすること、及び破船があれば後続の船は直ちに停船すること
1・巳ノ刻(午前10時)過ぎの航行は厳重注意すること(風向注意)
等でした。
　航行に使われた船は大・中・小船でそれぞれ350俵積・250俵積・200俵積の平田船でした。過積みによる破船が多かったせいもあろうが、代官所では15俵前後の過積みは許していたようです。
　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　碁点付近の最上川
　さて、御城米下しは春彼岸から行なうことに定められており、１日平均12艘～20艘が下ったというから壮観なものだったに違いありません。御城米下しが終ると商荷輸送が認められ、日用雑貨・調度品などが輸送されたようです。船荷輸送については「大石田町史」に詳しいので省略しますが、村では交替に納名主が乗船するなど、細心の注意を払って輪送を心掛けたようです。三難所をとりまく周辺の村といえば、早房村、長崎村、大槙村(鹿ノ子沢・矢崎・船戸の集落)・大淀村などがあり、上り船の船しょ人夫を業とするものが多かった。この仕事の賃金が高かったせいでしょう。これらの村々の納屋には太い綱が準備されていました。仕事の合問をぬって漁労していたようで、囲炉裏の上に火棚があり、そこに弁慶があって焼いた魚を串刺しにして保存したさまを思い起こす人が多いのでないでしょうか。
　さて、船積みする場所は川岸とよばれますが、この設定は簡単にできませんでした。川岸の設定には一定の条件を満たすことが必要でした。
1・荷運賃の計算ができる人が確保されていること。
2・船手形の発行ができる人がいること。
3・川岸に一時荷物の保管場所が設定できること。
4・川岸設定の営業許可をもっていること。
　この条件があってはじめて川岸ができるのです。しかし教育がなされない時期には従事できる人はいませんでした。川岸設定の規制が緩和されたのは、江戸時代の末期天保13（1842）年のころからです。とはいえ、実際はそれ以前の文化期(1811年)には、代官所宛に「荷積状交付申請書」を提出しているところから、川沿いの村々に対する川岸積み出しについての厳重な取り扱いは、かなり緩和されていたように思われます。
　大槙村の米出し原は、現共栄橋の下流にありました。ここは庄屋の家からほぼ東にのびた道路が最上川と交わる点にあり、当時としては一番整備された道路だったと思われます。現在白山神社の境内には、11基の馬頭観音の供養塔がみられますが、その造立をみると殆ど江戸時代のものです。馬を飼っていた百姓が馬の供養のために造立したものでしょう。馬は駄馬として荷を運んだり、農耕などに使われたのです。
　槙の餅にふれると、一説には破船の結果沈んだ米の拾得を喜んでついた餅という説とまた、最上川を遡ってくる鮭や鱒の漁獲を喜んでついた餅である、と２説あります。どちらも真実味があって捨て難い。しかし、これらの年中行事も逐年薄れていって、忘れている家庭が多いのは淋しい限りです。
　　藩政から明治・大正時代以降
　幕末の安政５（1858）年は尊王・嬢夷の高まりが激しい時代で、幕府の大老井伊直弼が桜田門外で謀殺され、世相は一段と険悪になっていました。翌年の安政６（1859）年７月25日及び８月13日は、村山地方に大暴風雨があり農産物は壊滅の状態でした。この状況について北村山郡史には次のように記されています。
「古来聞き伝えも之れ無き大暴風雨にて川に洪水いたし、田畑に水冠り、川欠損地おびただしく出来、田方は肝要の出穂中、一円風痛み、就中畑方の儀は秋作第一の大小豆煙草菜大根に至るまで悉く風痛み、別して水押しの分は水腐れ皆無の場所も少なからず、しかのみならず百姓居宅囲物置小屋等吹き潰し、樹木は過半吹き倒し、屋根吹き抜き壁倒れ、住居差支候者も多分有之　(省略)」
　このため、庄屋は被害の届書や減税の願書づくりと差し出しに追われる状況でした。しかし、代官所の力も弱まって必ずしも村の自治は安泰でなく、無頼の徒が横行し世情は一層険悪の度合いを深めていました。これによって、村の自治、取締まりに関する名主の議定書が出されています。この議定書は公領・私領・寺社領の庄屋が代官所のある寒河江に集まり決定したもので、次のような内容になっています。
一・近来悪徒等脇差を帯び、在〃所〃に党を結び、押し歩き候間、取締まり向厳重に仰せ渡さるる儀に御座候共、何分相止まず(略)
一・近来盗賊多く緋徊致し、中には乞食又は商人体に姿を替え、農家の留守を窺い在所とも年年盗難の憂い少なからず、一統難渋致し候・・・略
上記議定書は代官所に治安維持の取締りを依頼した嘆願書です。しかし幕末の幕府の統制力は大変弱まっており、代官所は手出しができない状態でした。
　さて、明治維新後の明治４年(1871年)廃藩置県制により、山形県に属し第2大区第8小区(大久保、湯野沢、岩野、樽石、長善寺、稲下、大槙、白鳥、富並、山内、横山村)に編入され、寒河江大区務所に属することとなりました。明治17（1884）年大槙村・稲下村・長善寺村・樽石村は、戸長役場を大槙に置き、明治22（1889）年に上記4ケ村は合併し、戸沢村として役場を長善寺におきました。
　明治19（1886）年頃から水争いが激しくなり、大槙と白鳥、大槙と稲下、大槙と大久保といった水争いが明治39（1906）年ごろまで、断続的に続きました(この事は「戸沢の郷土史」に詳しいので省略しました)。
　明治20（1887）年頃から養蚕業が盛んとなりました。舟戸に絹工場が造られたのもこの頃です。
　大正9（1920）年戸沢地区に初めて電燈がつきました。
　大正11（1922）年白鳥村が戸沢村に編入しました。
　大正12（1923）年に選任された高橋村長は、大正15（1926）年青年訓練所を設置して、青年教育に意を用いました。青年訓練校は昭和14年以降義務制となりました。
　米・薪・水があれば農家では自給自足の生活ができるとは、古老の伝承です。薪ゐは山林払い下げで満たされました。水は井戸水のことですが、大槙では潅水の農業用水が不足し長い闇懸案でしたが、昭和35年に最上川揚水が認められ解決しました。このことは多くの先輩の努力の賜物であることを忘れてなりません。

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