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にしかたの昔語り

民話・説話

 白い神と動物にまつわる話
 
 平成18年の秋に父から聞いた話なのですが,稲下の稲荷神社から北山の高森山,中村の縄文遺跡付近の一本杉を経て一杯清水,引竜までの直線上は雷の通り道なのだそうです。通り道は最終的には葉山の立岩で終わる。中村の近くの峰山で畑仕事をしている農家の方も「高森山の上空が暗くなってくるとやがて雷雨がやってくる。」といっている,といっていました。
 にしかたに伝わる伝説上の竜の話はすべて天の恵みの雨に関連する話で,碁点から沸き上がる水蒸気がやがて雲となり雷雲となって稲下−北山−湯野沢に恵みの雨を降らせ,引竜−葉山へと去っていくことを象徴している話のようです。雲や雨を空を飛ぶ竜にたとえたのでしょう。
 そして,冬の間の積雪が春の雪解けとともに葉山を流れ下り千座川をはじめとする川となってにしかたの田畑を潤し,やがて最上川へと流れ込んでいきます。これを昔の人は白蛇にたとえたもののようです。物語の中で白蛇は主に葉山の山中に出現しますが,白竜は最上川等の川や沼に語られます。特に竜の話が多いのは,やはり昔は干ばつに見舞われることが多かったことのあらわれなのでしょう。葉山修験の里,山の内地区にある大学院,和性院,富並地区の龍蔵院,滝泉院は,滝水に関連した寺院名です。また,名取地区の清水(すず)は,葉山の湧水が隼房の岩盤とお羽黒山の地下を流れ,名取地区の清水から湧き出しているのだといわれています。
 湯野沢と岩木地区の間を流れる法師川中流の山中に引龍,一杯清水という所があります。ここは葉山から流れる星川が右山中から流れる遅の沢川と合流し,さらに左から流れる桧戸の沢が合流して法師川となって流れる地点です。ここは左から来る田代道と右から来る葉山道との三叉路となっています。桧戸の沢には「白蛇の滝」という小さな滝があり,この滝壼は深く,碁点まで続いており,葉山の白竜がこの滝壼から碁点に降り,大龍となって舞い上がるのだと伝えられています。また遅の沢には桂滝不動尊が祭られています。
 岩野地区の葉山参道脇の三の滝に,三日月不動尊が祀られています。さらに三の滝の下流には荒沢観音が祀られています。千座川一関付近には人が入れる程の洞穴があり,この洞穴はやはり最上川の碁点の川底まで続いているといわれていて,大きな龍がこの洞穴を下って碁点から天に舞い上がり飛翔して雨を降らすといわれています。そして,雨上がりの晴天の月夜には,この大きな龍も八人の天女となって川面より舞い上がり川島山を旋回しながら葉山に帰っていくといわれています。また岩野の白石山明神(松尾明神)は白馬となって地滑りをおこし旧上野村である山添村,平林村を埋め尽くしした後,大空に飛び上がっていったと伝えられています。
 ここで紹介する法師による祈祷行事による竜引き,竜神の昇天・八乙女の禊ぎ,天女の昇天といった一連の祀り行事,竜神雷神太鼓などの葉山竜神祭ともいえる祭り(竜神祈祷祭,感謝祭)は,葉山山麓の村々に生きてきた葉山竜神・水神への信仰を意味するものだと思われます。これらの神仏は川の流れや水を神格化・仏格化したもので,人々の水に対する畏敬の念でありました。
 これらの話が伝わる場所には次の共通点が見られます。
1.地滑りをおこし地肌や岩肌を剥き出した川近くの馬蹄形の山があること。
2.いずれも三叉路であること。白蛇の棲息する所であること。
3.白蛇・竜神や不動尊が祀られていて,そこには最上川に通じる洞窟があり,白竜は地下道を通って最上川の川面から天に向かって飛翔すること。葉山の霊水も同様に地下道を通り平地の村里から湧き出ます。
4.神馬である白馬や葦毛馬が舞い上がるといわれる所であること。葉山には早馬・白馬の神の伝説が伝えられています。